海外在住者の体験入学はフリーライド?

まずは、こちらをお読みください。

ほぼ同じ内容を音声でも発信しておられますので、お好きな方からどうぞ。

長くなりますが、私の考えをまとめます。


一括りに海外在住邦人と言っても様々なケースや状況の方がおられるので、全員が等しく同じ境遇ではないことは前提ですが、海外転出届を出し日本の住民票は抜いて海外へ引越された方が大半だろうと思います。

この方は、日本に住民票がない海外在住邦人が、短期の一時帰国の際に本来は不必要な転入届を出し住民票を戻す手続きをすることで、税金を納めていないのに3割負担だけで医療を受けることと、税金を払っていないのに日本の公立学校へ体験入学することを、公共福祉へのフリーライドではないかと問題視されています。

まず最初に、国民健康保険加入と医療受診の問題と、子どもの体験入学を同じ文脈で考えることが、そもそも間違っていると私は思います。

医療は福祉の分野ですが、義務教育は福祉ではなく義務であり権利です。

就学年齢の子どもに、親が税金を納めていないからたとえ1週間であっても学校に来られるのは迷惑だとは、国も自治体も決して言えないだろうと思いますし、言うことは間違いだと思います。

加えて、公立学校の教職員の労働環境の問題などから、生徒が一時的に在籍することで現場の教員の負担が増えたり、日本語能力の問題から授業に支障が出ることは別の問題として考える必要があります。地方自治体によっては体験入学を断るところも実際にありますが、それは納税の有無の問題ではないことを頭に入れておくべきでしょう。

海外在住者にとって、義務教育の間は在住国の大使館か領事館を通じて、日本の教科書の無償配布が受けられることは周知の事実ですが、日本政府がなぜ在外邦人にこのような業務をしているのか、この方にはよくお考えになっていただきたいところです。

通っている日本語補習校で受け取ったり、大使館領事館まで行くか配送料を払って発送してもらって教科書を受け取っている子どもは世界中にたくさんいます。           保護者と子ども本人が日本国籍を有していることを申請時に確認されますが、日本への納税の有無は当然ながら問われません。

色々な理由で教科書配布の希望を申請しないご家庭もありますが、記事によると、この方はご自分のお子さんの教科書を受け取っておられます。そこはどうなんでしょうか。

これにかかった税金は日本で学校に行く子供のために使って欲しいとは書いておられますが、受け取っていたら言っている意味はないでしょう。

逡巡されたようですが、あえて問題提起することで海外在住邦人のモラルを問いたいという趣旨のようにお見受けしますが、結果として決して良い問題提起とは言えず、日本人の心の貧しさを露呈しただけと言うか、税金を会費や使用料と同じ目的の支払いのように考えて、払った人と払ってない人が同じ恩恵を受けるのはおかしいという歪んだ思考の人が世の中に存在するという事実が明らかになっただけのような気がします。

税金は払った人のためだけに使われるお金ではなく、多く払った人も少ししか払わない人も納税を免除されている人も、誰もが生きていく上で困らないように、必要な福祉、医療、教育、環境整備等に使われるべきものです。


一例として、東京都世田谷区役所のサイトを参照してください。

住民票がなくても世田谷区に滞在していることが確認できれば、一時的な編入学として正式に認めると明記されています。日本の国籍がない子どもでも条件が合えば可能ですし、納税の有無は一切問われていません。義務教育とは本来そうあるべきものではないでしょうか?

世田谷区に限らず、体験入学や一時的編入学を認めている自治体や教育委員会があるのは、納税の有無に関わらず学校へ通うことは認められているという何よりの証拠であり、海外在住の子どもが日本に一時帰国して短期間でも日本の学校へ通うことは双方の子どもにとって何らかの教育的プラスがあると思うからこその対応なのではないのでしょうか。

もちろん、現場の教職員の方々や一緒に勉強する児童生徒の皆さんに、不快な思いをさせたり過剰な手間をかけてしまうことは避けなくてはなりません。

あくまでも生徒として学校に通うのですから、常時通訳が必要なほどの日本語力で先生だけに任せるのは難しいでしょうし、授業に支障をきたすような行動をしないように、在住国にいる時から、日本語や日本の習慣や常識について準備や教育をしておく必要はあると思います。

お客さん然として行って楽しく過ごせる体験型施設のように学校を考えるのであれば、モラルがない行為だとは言えるでしょう。


古い話になりますが私の実体験をお話しすると、現在27歳の娘は、幼稚園年中組から中学1年生まで毎夏3ヶ月日本に帰国し、日本の幼稚園、小学校、中学校を経験して育ちました。

一時帰国でも3ヶ月もこちらにいるのであれば、支払いが生じるけれども住民票を戻して国民健康保険を取得した方が良い。子どもは熱を出したり怪我をしたりすることもあるし、学校に通うのなら尚更あった方が安心でしょうと区役所の窓口の方はおっしゃいました。

住民票を入れれば自動的に国民健康保険料も国民年金も介護保険料も支払い義務が生じますから、月割りできちんとお支払いし、帰国した後に実家に頼んで転出届を毎年提出しました。(帰国便の搭乗券の半券を海外退出届を出す時に提示する必要があったため)

私は今後も日本に住む予定はありませんが、払い損だと思ったことはありません。私の支払ったささやかな金額でも、日本に住む誰かのために使われるのなら十分です。

それが税金ではありませんか?

また体験入学についても、校長先生や教頭先生にお願いにあがり、快く許可していただいた上で、通える期間が長いので体験入学ではなく一時的ではあっても正式な編入生として扱う方が良いだろうと、住民票を入れることについて否定的なことは言われませんでした。

現地の生徒さんたちが実費として納めている費用(給食費、副教材費、図画工作などの材料費、PTA会費、学校保険費など)は、日割りにできるものは日割り計算してもらって納入し、教科書は本来は編入生なら無償になりますが、教科書配布の時期を過ぎているので全部揃うまで日数がかかりすぎるとのことで、必要な教科は実費で購入したり、副読本などは担任の先生からお借りしたりしていました。

最後の日には同じ組の子供達全員と先生方にお礼の品をお渡しして、来年もよろしくお願いしますと挨拶をして帰りました。

夏休みの一時帰国は娘の日本語のためには必要不可欠と考えていましたので、日本で学校に通うことは大きな目的で、そのためにイタリアにいる9ヶ月間は毎日家庭でしっかり日本語を勉強し、少なくとも国語の教科書は同じように勉強しておくと言うのが私の基本方針でした。(娘にとってはなかなかきつい方針だったと思います)

娘が現在もイタリア語と同じように日本語で読み書きまでできるのは、彼女自身が一人で毎日こつこつ漢字ドリルや市販教材を使って日本語を勉強した努力の結果ですが、毎年「もうすぐNちゃんが来る頃だね」と楽しみにしてくれていた日本の先生と同級生や、ずっと学校に通っている子供のように楽しく過ごさせてくださった学校のおかげでもあると思っています。

夏休み中の学校行事に参加したりプール教室にも同じように通い、皆と同じように宿題や漢字テストをがんばり、定期試験も受け、背中にランドセルの形にびっしり汗をかいて帰ってくるという日本の蒸し暑い季節を経験したりして育ったことは、本当に貴重な経験でした。

イタリアで大学まで勉強し日本語とは関係のない職種に就職しましたが、毎夏の思い出だけではない娘の大切な一部分になったと思います。


日本語を習得することは日本に行かなくても理論上は可能です。

けれども、継承語として日本語を学ぶ子どもにとって、実際に日本へ行って自分でいろいろな経験をすることは、ドリルや問題集で言語を習得するだけでは得られない生きた日本語を身につける貴重な機会なのです。

日本語補習校や継承語教室は一部分だけでもせめて子供達にそんな機会を作りたいと思って、工夫して努力しているわけですが、本物の日本の生活には敵いません。


今、お子さんを育てていらっしゃる海外在住の若いお父さんお母さんの皆さん

日本への一時帰国の際に日本でお子さんを学校に通わせることは、決してフリーライドでもモラルがないことでもありません。教育の機会を求める日本語話者の親の自然な願いです。

節度を持って臨み、事前に準備をし、子どもに準備や教育もした上で、受け入れをしていただける自治体にお願いすることは恥ずかしい行為ではありません。

子供の成長はあっと言う間です。この貴重な機会を他者の歪んだ視線を気にして無駄にしないでください。法律違反ではないがモラルの問題だと言われるようなことでは決してないと、自信を持ってください。

ただ、ご自分のお子さんより後の人が、こんな前例があったからと理不尽に体験入学を断られる原因にならないように、常識と礼儀を持ち学校側の指示を守って通学させることも忘れないでくださいね。

子ども達が人生のほんの一瞬であっても国を跨いで貴重な経験をし楽しく学んで育つことは、本人だけでなく、大人にも社会にもプラスになることがきっとあると信じています。


また、仕事の関係などで気軽に長期の休みを取れなかったり、在住国の学校制度で休み期間が合わなかったり、日本のご実家や親族がいらっしゃらなかったり、様々な事情や都合で毎年そんなに簡単には一時帰国できない方も少なくないと思います。

それでも日本語をなんとか頑張りたいなと思っておられるのであれば、あきらめないで、在住国で良いお仲間を見つけたり、数年に1度でも日本滞在を計画したり、近くに日本人学校がある方ならそこで体験入学できるか相談してみたりと、できる範囲でお子さんのために日本語と日本文化を身近に感じられるように考えてみてください。道は必ず開けます。



この方も在住国で労働し納税しておられるでしょう?

在住国にルーツがあって他国に住んでいる子どもが一時帰国して学校に通うケースも決してゼロではないはずです。お互い様だとなぜ思えないのかと私は聞きたいです。

教育移住と言って日本より良い教育が受けられる、進んでいると宣伝し、日本人家庭がそれを目的に海外に引っ越すことをフリーライドとは考えないのであれば、海外在住日本人が年に1回限られた日数だけ日本の学校に通うことをどうして責められるのでしょうか?


遡って投稿されている記事をざっと拝見しましたが、日本では高校の先生をされていたようです。現職だった頃に給料が増えるわけでもないのに仕事量が増えるのは嫌だ、迷惑だと思われたのなら、それは上司や教育委員会、自治体や労働基準局、文部科学省に言うべき問題であって、世界中に数多くいる一時帰国時の体験入学を楽しみにしている子どもとありがたいと感謝している保護者に対して、嫌味ったらしい考えをもっともらしい口調で言うべきではないと思いますし、お客様気分で遊び半分の体験入学をさせる親を実際にご存知なのであれば、その方に直接しっかりご注意なさったら済む話だと思います。


また、他の古い記事で、この方はコロナ禍にワクチン接種せず、日本へ帰国された際にはマスク着用も拒否されていた様子ですが、日本のホテルでマスク着用していないことを遠回しに非常識だとおじさんに非難されたことへの憤りを書いておられます。(下のリンクを参照)


コロナという未知の感染症で世界中が大変だった時、ワクチンを接種せずマスクを拒否した人も数多く存在しました。同時に、確かなことはまだわからないけれど、できるだけ感染を広げないように予防に努めよう、不自由も我慢して皆で乗り越えようと考えた人もいました。

...人には色々な考え方があり、どういう行動を取るかはその人の自由。自分の行動は正義だと信じ込んでいるのはなぜなのか?...ご自分のことに関してはそうお考えになるようです。

この言葉を書いた人が、体験入学をさせる親にモラルの問題だと筋違いの主張をされるのは、片腹痛いとだけ最後に付け加えておきます。



こどもの にほんご

nipponica イタリア・ボローニャ 幼児からの継承日本語クラス